※リンパ浮腫外来は予約制となります。
担当医師紹介
亀田総合病院 リンパ浮腫センター
センター長 林 明辰
専門分野:リンパ浮腫、マイクロサージャリー
資格:日本形成外科学会専門医
リンパ浮腫の治療において、世界で初めて超音波を併用した新たな手法を確立
麹町皮ふ科・形成外科クリニック
理事長 苅部 淳
専門分野:マイクロサージャリー、リンパ管吻合術、乳房再建術、性適合手術、美容外科手術、静脈瘤
資格:日本形成外科学会専門医、日本抗加齢学会専門医、日本医師会認定産業医
□ 子宮・卵巣・乳がんの手術を受けられた方
□ 原発性リンパ浮腫と診断された方
□ がん術後に腕や足のむくみやしびれを感じた方
□ 手足がだるい・重いと感じた方
□ 包帯圧迫では十分な効果が得られなかった方
リンパ浮腫の主な症状
□ 腕や脚がむくむ
□ 腕や脚が重く、だるさを感じる
□ 疲れやすくなった
□ 腕や脚を動かしづらい
□ 皮膚をつまんだ際にしわが寄りづらい
□ 指で押すと戻りが悪く痕が付く
□ 腕や脚の静脈が左右異なって見える また、静脈が見えづらくなる
重症化すると現れる主な症状
□ むくみが悪化する
□ 皮膚が硬くなり、浮腫がひきづらくなる
□ 皮膚が乾燥しやすくなる
□ 腕や脚を動かすと違和感を感じる
□ 腕や脚が赤くなり熱をもつ
「むくみ」とリンパ浮腫
体液のうち9割は静脈に回収されますが、残りの1割は間質液と呼ばれ、全身のリンパ節で回収されます。これが「リンパ液」です。血液が血管を介して細胞との物々交換を行う一方で、リンパ液は血管では回収できない比較的大きな物質を水分とともに取り込みます。細菌や異物、がん細胞などの病原体も同様にリンパの中に取り込まれ、リンパ管から「リンパ節」に入ります。つまり、リンパ節はこの細菌や異物のフィルターとなり、全身で炎症が発生するのを防ぐ働きをしているのです。
「むくみ」「腫れ」「浮腫」の違いですが、循環機能や排尿の機能が低下することで体に水分が滞り、膨れた状態になることを「むくみ」と言い、その状態を医学的に「浮腫」と言います。「腫れ」とは血液成分が血管の外で貯留してしまい、体積が増加した状態になることをさします。
リンパ浮腫の原因
リンパ浮腫には原因不明の先天性・突発性のものもありますが、多くは外科的な手術や治療の後遺症として明らかな原因が把握できる続発性(二次性)リンパ浮腫がほとんどです。中でも最も多いのが、がん手術後の二次性リンパ浮腫です。
特に乳がんや、子宮がん・卵巣がんの婦人科系がん手術においては、がんの転移を考慮し、病巣付近のリンパ節を切除する「リンパ節郭清」を行うことがあります。多くのリンパ菅が集まるリンパ節を切除することになるため、リンパ液の流れが停滞することで浮腫が生じます。リンパ浮腫は、乳がん手術でリンパ節郭清をした方のうち10〜20%、婦人科系疾患によるがん手術でリンパ節郭清をした方のうち30〜35%発症するという報告があります。
発症時期は術後すぐのこともあれば、10〜20年後経過してからのこともあり個人差が大きいのが特徴です。しかし上肢や下肢に左右差などが見られるようになってからでは既に進行している場合が多く、リンパ浮腫は早期発見が重要となります。リンパ浮腫により、リンパ管の内圧が上昇することでリンパ管は拡張します。その状態が続くと、次にリンパ管自体に負担がかかり変性をきたすことになります。この変形がさらにリンパ浮腫の悪化を招くことになるのです。
リンパ浮腫の診断
癌を診断する際、身体所見や問診以外に、画像検査や病理検査などが必須であるようにリンパ浮腫の診断にも画像検査という客観的な検査が必要となります。浮腫の程度は診察によってわかりますが、浮腫の程度とリンパ管の障害の程度は必ずしも一致しません。そのため、画像検査によってリンパ管そのものを見て、障害の程度を診断することが非常に重要です。
血管の造影は静脈に造影剤を注射すれば (静脈→心臓→動脈→静脈)と 全身の血管が撮影できますが、リンパ管は非常に細いため、簡単にリンパ管に注射できません。皮下注射などでリンパ管に取り込まれるのを待つ必要があります。リンパ管の撮影が時間がかかり難しいのはこのためです。また、造影剤には副作用があるものがあり、患者様の体への負担が懸念されます。
また、高周波超音波を用いた検査方法もあります。皮膚・皮下組織・液体貯留の状態を定期的に観察することでリンパ浮腫の重症度・増悪のタイミングを把握することができるため、リンパ浮腫の日常診療に有効ですが、拡張していないリンパ管は捉えにくい、φ0.3~0.4mm以下では他組織との判別が難しいなどの弱点がありました。
林明辰医師は、超高周波超音波を使用してリンパ管を診断し、より効果的に効率よく手術を行う世界初となる方法を2017年に確立・発表しました。この技術によって手術の際に造影剤を使用しない治療が実現し、体への負担を大きく軽減することが可能となっています。
「超高周波超音波」を用いた最新のリンパ浮腫評価方法では、最大70MHzの超高周波スキャンにより、リアルタイムに高解像度で確認することが可能になりました。さらに、従来の高周波超音波では困難だったリンパ管の変性を捉えることが可能となり、リンパ浮腫の進行において、より広いフェーズでのリンパ管の同定が実現しました。
超高周波超音波を用いることでリンパ管の変遷を捉えることが可能となり、従来より患者様の体に負担をかけず、効率的・効果的な診断と手術・治療が可能となっています。
リンパ浮腫の治療法
一度発症したリンパ浮腫の完治は困難ですが、日常的なケアで発症を予防することや、外科的な治療と合わせることで症状が緩和することがあります。いずれの場合においてもやはり、リンパ浮腫は早期発見が要となります。
浮腫が発症した部分の皮膚は炎症を起こしやすくなっているため、感染症予防のためのスキンケアが必要です。さらに医療徒手リンパドレナージ、専用ストッキングでの圧迫療法、運動療法などが日常的なケア(保存的治療)として挙げられます。
リンパ管の変性が進みリンパ浮腫が増悪している症例に対しては、早い段階で保存的治療に外科治療を併用することで症状を緩和することができます。
外科治療では、狭窄や閉塞が起きているリンパ管のダメージが少ない部分を静脈に吻合し、リンパ管から静脈へのバイパス道を作ることでリンパ液の停滞を解消する「リンパ管静脈吻合術」があります。さらに変性が進み狭窄・閉塞しているリンパ管が大多数を占めるような症例では、健常部位からリンパ節と周辺細胞組織を採取し、リンパ浮腫患部に移植する「リンパ節移植術」という手術があります。
リンパ管静脈吻合術
軽症なリンパ浮腫、つまりリンパ管の変性があまり進んでいない症例に対しては、保存的治療のみでも十分対応できます。その一方で、リンパ管の変性が進みリンパ浮腫が増悪している症例に対しては、早い段階で保存的治療に外科治療を併用することで、リンパ浮腫の症状軽減、増悪速度の鈍化、蜂窩織炎(感染)の軽減が期待できることが分かってきています。
乳がんや子宮がん、卵巣がんをはじめとするがんの治療においてリンパ節郭清を行ったり放射線治療を行った場合、リンパ管の中を流れるリンパ液の流れが停滞してしまい、リンパ管の変性が進み、リンパ浮腫が進行します。手や足から体の中心へ走行しているリンパ管は、通常、心臓の近くの“静脈角”と呼ばれる場所で、静脈(右鎖骨下静脈あるいは左鎖骨下静脈)に流入し、体液の大きな循環に戻っていきます。しかし、リンパ浮腫が進行するに従い、リンパ管の変性が進みリンパ管の狭窄や閉塞が起きているため、リンパ液は静脈角までたどり着くことができず、静脈に合流することができません。そのため、さらにリンパ管内の圧力が高まり、リンパ管の変性がさらに広がり、リンパ管のリンパ液の回収能力が低下してしまい、浮腫が悪化するという悪循環が続くのです。
リンパ管静脈吻合術の大きな目的は、この悪循環を断ち切ることにあります。上肢や下肢において、狭窄や閉塞が起きている部分より手前のダメージがより少ないリンパ管を選択し、これを静脈に吻合し“リンパ管から静脈へのバイパス道”を作ってあげることで、静脈に合流できずに鬱滞していたリンパ流が解消され、リンパ管の変性をくい止めることができるようになり、浮腫の症状改善が期待できるのです。
リンパ浮腫手術後
上記の術後は周径の減少、蜂窩織炎の減少、主観的症状(重たさ、しびれ、痛みなど)の改善、浮腫が柔らかくなるなどの効果が見られますが、リンパ管静脈吻合術と比較するとリンパ節移植術はやや侵襲的な手術であり、効果が出るまでに時間がかかることがあります。いずれの手術療法においても、術後はバンデージ(弾性包帯)や弾性着衣は必要となりますが、早期に治療した際はそれらが不要になる場合もあります。
術後、可能性のある合併症としては創部離開、創部感染、リンパ漏、出血・痛みなどが挙げられます。