粉瘤(アテローム)とはどんな病気か

皆様は顔や、耳たぶ、背中に急にしこりを発見したことがあるはずです。
粉瘤は、皮膚の内側に袋状の構造物ができ、本来皮膚から剥げ落ちるはずの垢(角質)や皮脂がその袋の中に溜まってできた腫瘍(嚢腫)です(公益社団法人日本皮膚科学会「皮膚科Q&A」による定義)。
俗に「脂肪の塊」と呼ばれることもありますが、脂肪細胞の増殖ではなく嚢腫の一種であり、正確には「表皮嚢腫(ひょうひのうしゅ)」とも言います。
外見は数mmから数cmの半球状のしこりで、皮膚がやや盛り上がります。
中央に黒い点(毛穴の開口部)が見えることが多く、圧迫すると臭いのある白〜黄色のネリ状の内容物が出てくる場合があります。好発部位は顔・首・背中・耳の後ろなどですが、体のどこにでも生じます。
炎症を起こしていない粉瘤は痛みがなく、放置してもすぐに命に関わるわけではありません。ただし自然に消えることはほとんどなく、時間とともに少しずつ大きくなる傾向があります。サイズが大きくなるほど手術の傷も大きくなり、炎症を繰り返すと周囲の組織と癒着して手術が難しくなるため、気になった段階で皮膚科・形成外科を受診することをお勧めします。
粉瘤の切除手術に健康保険は使えるか

粉瘤の切除手術は、皮膚科・形成外科領域における「皮膚の良性腫瘍」の治療として、健康保険(健康保険・国民健康保険など公的医療保険)が適用されます。3割負担の場合、窓口で支払うのは医療費総額の3割のみです。
ただし、医学的な治療目的ではなく「美容目的」と判断された場合は保険が使えず、全額自己負担(自由診療)になります。具体的には、治療の必要性が低く外見の改善のみを目的とするケースがこれに当たります。また、美容外科・美容皮膚科の中には最初から自由診療のみで粉瘤手術を行うクリニックもあるため、受診前に「保険診療で対応しているか」を確認しておくとよいでしょう。
保険適用外(自由診療)になる主なケース
- 医学的な治療の必要性がなく、美容目的のみと判断された場合
- 自由診療専門のクリニックでの施術
- 保険外の術式・資材を選択した場合(施設によって異なる)
部位・サイズ別の診療報酬点数と自己負担額の目安

保険診療における手術費用は「診療報酬点数」によって国が定めた基準で計算され、粉瘤の切除手術は「部位(露出部か非露出部か)」と「腫瘍の長径(サイズ)」の組み合わせで点数が決まります。1点=10円で計算し、3割負担の自己負担額は「点数 × 10円 × 0.3」です。
以下の点数はclinical support(医科点数表データベース)で確認した現行の診療報酬点数です。
露出部(K005)の診療報酬点数
露出部とは、顔・首・頭部・肘から先(前腕以下)・膝から先(下腿以下)など、通常衣服で覆われない部位を指します。
| 粉瘤の長径 | 診療報酬点数 | 3割負担の目安(手術料のみ) |
|---|---|---|
| 2cm未満 | 1,660点 | 約4,980円 |
| 2cm以上4cm未満 | 3,670点 | 約11,010円 |
| 4cm以上 | 5,010点 | 約15,030円 |
非露出部(K006)の診療報酬点数
非露出部とは、胸部・腹部・背中・臀部・大腿・上腕など、通常衣服で覆われる部位を指します。露出部よりも点数区分が細かく設定されています。
| 粉瘤の長径 | 診療報酬点数 | 3割負担の目安(手術料のみ) |
|---|---|---|
| 3cm未満 | 1,280点 | 約3,840円 |
| 3cm以上6cm未満 | 3,230点 | 約9,690円 |
| 6cm以上12cm未満 | 4,160点 | 約12,480円 |
| 12cm以上 | 8,320点 | 約24,960円 |
上記はあくまで手術料(診療報酬点数)のみの目安です。実際の窓口負担には初診料・麻酔料・病理組織検査料・薬剤料なども加わるため、合計額はこれより高くなります。
手術料以外にかかる費用の内訳

粉瘤の切除手術で支払う総額は、手術料単独ではありません。診察・麻酔・検査・処方薬など複数の費用が加算されます。3割負担を前提に、それぞれの費用の目安を確認しておきましょう。
初診料(または再診料)は、初めて受診する場合に3割負担でおおよそ900円前後かかります。術前に血液検査や超音波検査を行う場合はさらに費用が加算されます。局所麻酔を使った手術では、麻酔薬の費用も手術に含まれて算定されるのが一般的です。
切除した組織は病理組織診断(顕微鏡で悪性でないか確認する検査)に出すことが多く、病理診断料が追加されます。また、術後は感染予防の抗生剤や痛み止めが処方されることが多く、薬剤料も発生します。これらを合算すると、小さな粉瘤でも窓口負担の合計は手術料の目安額より数千円程度高くなるケースがあります。
くり抜き法と通常切除法の違いと費用への影響

粉瘤の手術方法は主に2種類あり、いずれも保険診療の対象です。どちらの術式を選んでも、診療報酬上は同じ「皮膚・皮下腫瘍摘出術」として算定されるため、手術費用の自己負担額に大きな差はありません。
| 比較項目 | 通常切除法(切開法) | くり抜き法(へそ抜き法) |
|---|---|---|
| 切開の大きさ | 粉瘤とほぼ同じ長さの紡錘形 | 直径約4mmの小さな穴 |
| 縫合 | あり(傷をきれいに縫合) | 原則なし(開放創で自然治癒) |
| 手術時間 | やや長め | 比較的短い |
| 治癒までの期間 | 比較的短い | 開放創のためやや長い |
| 適している状況 | 大部分の粉瘤 | 炎症なし・癒着が少ない粉瘤 |
| 保険適用 | 適用 | 適用(同じ診療報酬区分) |
くり抜き法は傷が小さく、顔など目立つ部位に向いています。ただし、炎症を繰り返して周囲との癒着が強い場合や、手のひら・足の裏の粉瘤には適用が難しいことがあります。どちらの術式が適しているかは、医師が診察時に判断します。
炎症を起こした粉瘤(炎症性粉瘤)の場合の治療と費用

粉瘤が細菌感染して急に赤く腫れ、強い痛みや膿が生じた状態を炎症性粉瘤といいます。この状態では、まず「切開排膿(せっかいはいのう)」という処置で膿を外に出す治療が行われます。切開排膿も保険診療の対象です。
炎症期に嚢腫そのものを一気に取り除こうとすると、組織の状態が悪くて袋の取り残しが起きやすく、再発リスクが上がります。そのため多くの場合、切開排膿で炎症を抑えてから数週間〜数か月後に改めて摘出手術を行う「二段階治療」になります。
二段階治療では合計2回の手術(処置+摘出)の費用がかかるため、炎症が起きる前に摘出した場合と比べて総費用が高くなります。費用面でも体への負担の面でも、炎症が起きる前の早い段階で受診・摘出することが望ましいといえます。
よくある誤解|見落としがちなポイント
誤解1:「くり抜き法は保険適用外の自費手術」
「くり抜き法は新しい術式だから自費になる」と思っている方がいますが、これは誤りです。くり抜き法(へそ抜き法)も通常の切除法と同じ「皮膚・皮下腫瘍摘出術(K005/K006)」として保険算定できます。保険適用かどうかは術式ではなく、「医学的な治療目的であるか」で判断されます。
誤解2:「大きな粉瘤は保険が使えない、または使いにくい」
サイズが大きくなると診療報酬点数(つまり手術費)が高くなりますが、保険適用の条件はサイズに関わらず同じです。大きな粉瘤であっても医学的に治療が必要と判断されれば保険診療の対象です。「費用が高いから保険が使えない」ということにはなりません。
皮膚科・形成外科を受診する目安
以下に当てはまる場合は、早めに皮膚科または形成外科を受診することをお勧めします。放置して炎症を繰り返すほど手術が難しくなり、治療費も増える傾向があります。
- 皮膚の下にしこりがあり、じわじわと大きくなっている
- しこりが急に赤く腫れてきた、または痛みがある
- しこりから臭いのある分泌物が出てきた
- 過去に炎症を起こしたことがある(再発リスクが高い)
- しこりの形・硬さ・境界が変化してきた(悪性との鑑別のため)
- 手術後の経過や傷跡が気になる
よくある質問
- Q. 診察だけでも保険は使えますか?その場で手術を決めなくても大丈夫ですか?
- 診察のみでも保険診療として受診できます。受診の際に必ずしもその日に手術を決める必要はなく、触診・超音波検査などで状態を確認してから治療方針を相談できます。初診の場合、診察料は3割負担でおおよそ900円前後が目安です。
- Q. 民間の医療保険(生命保険の手術給付金)はおりますか?
- 加入している医療保険に「手術給付金」が付帯している場合、粉瘤の切除手術で給付金を受け取れるケースがあります。ただし、保険会社・商品・約款の内容によって対象となる手術の条件が異なります。加入保険の「給付対象手術一覧」を確認するか、保険会社に直接問い合わせることをお勧めします。受診先への診断書発行依頼が必要になる場合もあります。
- Q. 切除後に再発することはありますか?再発した場合も保険は使えますか?
- 嚢腫の袋を丸ごと取り除ければ再発率は低いとされていますが、炎症後に癒着が生じて袋の取り残しがあった場合は再発することがあります。再発して再手術が必要になった場合も、医学的な治療として保険診療の対象です。
まとめ
粉瘤の切除手術は原則として健康保険が適用され、3割負担での手術料の自己負担は部位・サイズによって約3,840円〜24,960円の範囲が目安です。これに初診料・病理検査料・薬剤料などが加わり、実際の総窓口負担は手術料の目安額より高くなります。くり抜き法も保険診療の対象で、術式が変わっても保険適用の条件は変わりません。
炎症を起こした粉瘤は二段階治療になって費用が増えることもあるため、気になるしこりがある方は炎症を起こす前に受診することをお勧めします。当院(麹町皮ふ科・形成外科クリニック)でも粉瘤の保険診療を行っています。気になる症状があれば、お気軽にご相談ください。
気になる症状があれば皮膚科へご相談ください
セルフケアで改善しない、症状が長引いている、原因が分からないといった場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。麹町皮ふ科・形成外科クリニック(千代田区市ヶ谷)でもご相談いただけます。
所在地: 東京都千代田区(市ヶ谷/半蔵門/永田町) / 監修: 苅部 淳 医師(形成外科専門医)
References
- 公益社団法人日本皮膚科学会「皮膚科Q&A アテローム(粉瘤)」公益社団法人日本皮膚科学会 出典
- 公益社団法人日本皮膚科学会「皮膚科Q&A アテローム(粉瘤)Q9 治療はどうしますか?」公益社団法人日本皮膚科学会 出典
- 医科点数表データベース「K005 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部)」clinicalsup.jp(厚生労働省告示 診療報酬点数表に基づく) 出典
- 医科点数表データベース「K006 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部以外)」clinicalsup.jp(厚生労働省告示 診療報酬点数表に基づく) 出典
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監修医師

苅部 淳
Karibe Jun
理事長
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