妊娠中に皮膚トラブルが起きたとき、薬は使えるの?

妊娠中に湿疹やかゆみ、にきび、感染症などの皮膚トラブルが起きると、「薬を使っても赤ちゃんに影響はないか」と不安に感じる方は少なくありません。自己判断で市販薬を使うべきか、それとも我慢すべきか、迷ったまま症状を悪化させてしまうケースも実際の診療でよく見受けられます。この記事では、妊娠中に皮膚科で使われる薬の安全性や、受診のタイミング・注意点についてわかりやすく解説します。
- 妊娠中に皮膚科を受診することの安全性と重要性
- 妊娠中でも使用可能とされる薬・慎重に扱う薬の違い
- よくある皮膚トラブル別の対処法と受診の目安
- 皮膚科と産婦人科の連携のあり方
- 自己判断が危険なケースと早期受診が必要な症状
妊娠中に起こりやすい皮膚トラブルの種類

妊娠中はホルモンバランスの急激な変化・免疫機能の変化・血行の変動などにより、皮膚に様々な変化が生じやすくなります。もともと皮膚疾患がなかった方が初めてトラブルを経験することも珍しくなく、当院の外来でも「妊娠してから急に肌の調子が悪くなった」というご相談が増えています。
妊娠中に多くみられる皮膚トラブルを大きく分類すると、以下のようになります。
ホルモン変動に伴う皮膚症状
妊娠初期から中期にかけて、エストロゲンやプロゲステロンの分泌が急増します。これにより皮脂分泌が変化し、にきびが悪化する方もいれば、逆に皮膚が乾燥しやすくなる方もいます。また、色素沈着(肝斑・乳頭の黒ずみなど)が起こりやすい時期でもあります。
かゆみ・湿疹・じんましん
妊娠に伴うかゆみ(妊娠性そう痒症)は比較的多く経験されます。腹部が大きくなることで皮膚が引き伸ばされる物理的な刺激に加え、免疫の変化によってアレルギー反応が出やすくなることも原因のひとつです。アトピー性皮膚炎をお持ちの方では妊娠中に症状が変動することがあり、悪化する方も改善する方もいます。
感染症(カンジダ・ヘルペスなど)
免疫機能の変化により、カンジダ(真菌)感染や口唇ヘルペス・帯状疱疹などのウイルス感染が起こりやすくなる場合があります。これらは赤ちゃんへの影響リスクもあるため、自己判断せず早期に皮膚科または産婦人科を受診することが重要です。
妊娠特有の皮膚疾患
妊娠に特有の皮膚疾患として、「妊娠性疱疹(ヘルペスゲスタシオニス)」「妊娠中毒疹(PUPPP)」などがあります。これらは稀な疾患ですが、専門的な診断と管理が必要なため、強いかゆみや水疱が生じた場合は必ず医療機関を受診してください。
妊娠中に皮膚科を受診することは安全か?

「妊娠中に皮膚科へ行くと、強い薬を処方されてしまうのでは?」という心配から受診を躊躇する方がいますが、それは誤解です。皮膚科では妊娠中であることを伝えれば、それを前提とした安全性の高い治療を選択します。むしろ症状を我慢して悪化させることの方が、母体・胎児双方にとってリスクになりえます。
受診時には必ず「妊娠していること」「妊娠週数」「産婦人科のかかりつけ医院」を皮膚科医に伝えてください。必要に応じて産婦人科と連携し、薬の選択を行うことが一般的です。当院でも、妊娠中のご来院時には産婦人科との情報共有を大切にしながら診療を進めています。
苅部医師のコメント
「妊娠中に皮膚トラブルが起きると、『薬は一切使えない』と思い込んで受診を先延ばしにしてしまう方が多くいらっしゃいます。しかし、妊娠中でも安全性が確認されている薬は複数あり、症状の程度・部位・妊娠週数を考慮したうえで適切に対応することが可能です。また、強いかゆみや睡眠障害につながる皮膚症状を放置することは母体のストレスにもなりますので、まず受診してご相談いただきたいと思います。」
妊娠中の薬の安全性について知っておきたい基本知識

薬の安全性を考えるうえでは、「催奇形性(胎児の形態異常に影響する可能性)」と「胎盤通過性(薬が胎盤を介して胎児へ移行するか)」が重要な視点となります。すべての薬が危険なわけではなく、用量・使用期間・使用部位によってリスクは大きく異なります[1]。
FDA(米国食品医薬品局)の妊娠カテゴリーと日本での考え方
かつては米国FDAの「妊娠カテゴリー(A・B・C・D・X)」が薬の安全性の参考指標として用いられてきました。日本でも添付文書の「妊婦への投与」の項目に安全性情報が記載されており、処方を行う際の重要な根拠となっています。近年はFDAも新しい表記様式(PLLR)に切り替わっていますが、医師は各薬剤の安全性情報を総合的に評価したうえで処方します。
外用薬(塗り薬)と内服薬の違い
皮膚科で使われる薬の多くは「外用薬(塗り薬)」です。外用薬は全身への吸収量が内服薬に比べて少なく、適切な量・部位に使用する限り、胎児への影響は非常に限定的とされています。一方、内服薬は血液を介して全身に届くため、妊娠中は特により慎重に選択・管理されます。
妊娠中に使われる皮膚科の薬と安全性の目安

以下に、妊娠中に皮膚科でよく使われる薬の種類と、一般的な安全性の考え方をまとめます。ただし、実際の処方は妊娠週数や個々の状態によって異なるため、必ず医師の判断を仰いでください。
ステロイド外用薬(塗り薬)
湿疹・かゆみ・皮膚炎に対して広く使われるステロイド外用薬は、妊娠中でも「必要な量を必要な部位に短期間使用する」限りにおいて、安全性は比較的高いとされています[2]。日本皮膚科学会のガイドラインにおいても、妊娠中のアトピー性皮膚炎の治療においてステロイド外用薬は適切に使用する旨が示されています。
ただし、広範囲への長期使用や強力なステロイドを顔面・皮膚の薄い部位に継続使用することは避けるべきであり、強さのランク(ウィークからストロンゲストまで5段階)を踏まえた処方が行われます。
抗ヒスタミン薬(かゆみ止め・アレルギー薬)
かゆみやじんましんに使われる抗ヒスタミン薬の内服については、薬剤によって安全性情報が異なります。第一世代の抗ヒスタミン薬(クロルフェニラミンなど)は比較的長い使用実績があり、妊娠中にも使用されることがありますが、眠気や子宮への影響を考慮して妊娠後期は慎重に扱います。いずれも自己判断での服用は避け、医師に相談することが重要です。
抗真菌薬(カンジダ・水虫など)
外陰部カンジダや足白癬(水虫)などの真菌感染に対しては、外用の抗真菌薬が使用されます。外用薬は全身吸収が少ないため、妊娠中でも使用可能とされるものがあります。一方、内服の抗真菌薬(フルコナゾールなど)は妊娠中の安全性に懸念があるとされており、原則として妊娠中は内服を避けるよう推奨されています[3]。
抗生剤(細菌感染・にきびなど)
細菌性の皮膚感染症やにきびの悪化に対して抗生剤が処方されることがあります。ペニシリン系・セフェム系の一部は比較的安全性の高い抗生剤として妊娠中でも使用されることがありますが、テトラサイクリン系(ミノサイクリンなど)は歯や骨への影響の可能性から妊娠中は禁忌とされています。にきびに使っていた薬が妊娠を機に使えなくなる場合もあるため、妊娠が判明した時点で皮膚科医に相談することをお勧めします。
抗ウイルス薬(ヘルペス・帯状疱疹など)
口唇ヘルペスや帯状疱疹に用いるアシクロビルは、妊娠中の使用実績が多く、安全性に関するデータが蓄積されています。特に妊娠後期の性器ヘルペスは出産時の新生児への感染リスクがあるため、産婦人科と連携した対応が必要です。自己判断で市販の外用薬のみに頼らず、皮膚科または産婦人科を受診してください。
保湿剤・スキンケア製品
ヘパリン類似物質・ワセリン・尿素クリームなどの保湿剤は、妊娠中でも安心して使用できるとされており、乾燥肌やかゆみの基本ケアとして積極的に活用することが推奨されています。
妊娠中に注意が必要な薬・成分(自己判断で使わないもの)

以下に示す薬・成分は、妊娠中の使用に明確な制限または注意が必要なものです。市販品に含まれている場合もあるため、購入前に薬剤師に相談するか、皮膚科を受診することをお勧めします。
- レチノイン酸(ビタミンA誘導体):にきびや美容ケアに使われることがあるが、妊娠中は催奇形性のリスクから原則禁忌
- サリチル酸:角質ケア目的で市販品に含まれることがあるが、広範囲の長期使用は避けるべきとされている
- テトラサイクリン系抗生剤(内服):胎児の歯・骨の発育への影響が報告されており妊娠中は禁忌
- イソトレチノイン(内服):重症にきびの治療薬として知られるが、催奇形性が非常に高く妊娠中の使用は厳禁
- フルコナゾール(内服の抗真菌薬):一部の研究で先天異常との関連が報告されている
- コルヒチン・メトトレキサートなど免疫抑制薬・抗がん剤系の薬:皮膚科領域でも乾癬などに使用されることがあるが、妊娠中は原則禁忌
市販のスキンケア製品や化粧品に含まれる成分についても、高濃度のレチノール・サリチル酸・一部のエッセンシャルオイルなどは妊娠中の使用を控えることが推奨されています。成分表示を確認し、不明な点は購入前に薬剤師や医師にご相談ください。
妊娠時期(妊娠週数)と薬の影響
薬の影響は妊娠の時期によっても異なります。一般に「絶対過敏期(妊娠4〜7週)」と呼ばれる器官形成期は、胎児の臓器・体の構造が作られる重要な時期であり、催奇形性リスクが最も高いとされています。妊娠初期に皮膚症状が出た場合は特に慎重な対応が求められます。
妊娠中期(14〜27週)以降は器官形成が概ね完了するため、一部の薬のリスクは相対的に低下しますが、胎児の成長や神経系の発達への影響は引き続き考慮が必要です。妊娠後期(28週以降)は分娩への影響(子宮収縮への作用など)も考慮した薬剤選択が行われます。
よくある誤解と見落としがちなポイント
誤解1:「妊娠中は薬を一切使ってはいけない」
「妊娠中は絶対に薬を使ってはいけない」と思い込み、かゆみや炎症を我慢し続ける方がいます。しかし、治療しないことで症状が悪化した場合、搔き壊しによる感染・睡眠障害・精神的なストレスが増大し、母体の健康に影響を与えることがあります。また、感染症の場合は放置することで胎児への感染リスクが高まる可能性もあります。妊娠中に使用できる薬は数多くあり、症状の重さと薬のリスクを天秤にかけた判断が重要です。
誤解2:「市販の外用薬なら安心して使える」
「処方薬より市販薬の方が安全」というイメージを持つ方がいますが、これは必ずしも正しくありません。市販のにきびケア用品に含まれるレチノール・サリチル酸、かゆみ止めに含まれる一部の成分は、妊娠中に注意が必要なものも含まれています。市販薬を購入する際は薬剤師に妊娠中であることを伝えたうえで相談し、使用の可否を確認することが大切です。
症状別・妊娠中に皮膚科を受診すべきタイミング
以下のチェックリストに当てはまる場合は、速やかに皮膚科を受診することをお勧めします。
- 全身に広がるかゆみや発疹があり、夜も眠れないほどつらい
- 水疱(水ぶくれ)が突然出現した
- 帯状疱疹を疑う、神経に沿った痛みと発疹がある
- 口唇や性器にヘルペスが疑われる症状がある
- 外陰部にかゆみ・おりもの異常があり、カンジダ感染が疑われる
- 皮膚が赤くただれており、かき壊しによる感染が疑われる
- にきびが急激に悪化し、炎症が強い
- 妊娠前から使っていた皮膚科の薬を継続してよいか確認したい
- 自己判断で使った市販薬に不安を感じている
皮膚科での診療の流れと産婦人科との連携
妊娠中に皮膚科を受診した際は、問診で妊娠週数・かかりつけの産婦人科・現在服用中の薬などを確認します。その情報をもとに、皮膚科医が症状に適した治療法を選択します。必要に応じて産婦人科医と情報を共有し、安全な治療計画を立てることができます。
薬を処方する際には、妊娠中でも使用可能とされる薬剤の中から、症状の程度に見合った最小限の処方を行うことが基本方針です。また、薬の使用期間・量・使用部位についても、通常より細かく説明・指導が行われます。
妊娠中の皮膚科治療の比較
| 治療の種類 | 主な対象症状 | 妊娠中の使用 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ステロイド外用薬 | 湿疹・皮膚炎・かゆみ | 適切な量・部位・期間であれば使用可能とされる | 広範囲・長期使用は避ける |
| 保湿剤(ヘパリン類似物質・ワセリン等) | 乾燥肌・かゆみ | 妊娠中でも安心して使用可能とされる | 特になし |
| 抗ヒスタミン薬(内服) | じんましん・かゆみ | 薬剤により異なる・医師判断が必要 | 自己判断での服用は避ける |
| 外用抗真菌薬 | カンジダ・水虫 | 外用は比較的使用可能・内服は原則避ける | 内服は禁忌に近い扱いが多い |
| 抗ウイルス薬(アシクロビル等) | ヘルペス・帯状疱疹 | 使用実績あり・医師判断のもと使用 | 重症例・性器ヘルペスは産婦人科と連携 |
| レチノイン酸・イソトレチノイン(内服) | にきび・角化症 | 妊娠中は禁忌 | 妊娠判明時に直ちに中止し医師に相談 |
| テトラサイクリン系抗生剤(内服) | にきび・皮膚感染症 | 妊娠中は禁忌 | ペニシリン系・セフェム系への切り替えを検討 |
| ナローバンドUVB光線療法 | 乾癬・アトピー性皮膚炎 | 妊娠中でも使用可能とされる場合がある | 主治医と産婦人科医の連携が必要 |
なお、当院では一般皮膚科の保険診療として、ステロイド外用薬・抗ヒスタミン薬・抗真菌薬・抗ウイルス薬・光線療法(ナローバンドUVB)など、多様な治療の選択肢を提供しています。妊娠中の方には必ず妊娠週数や状態を確認しながら、安全性を重視した診療を行っています。
妊娠中のセルフケア:皮膚トラブルを悪化させないために
皮膚科への受診と並行して、日常のセルフケアも症状の管理に役立ちます。薬を使わずにできることから丁寧に取り組むことで、症状の軽減や悪化防止につながります。
- 毎日の保湿ケアを欠かさない(入浴後すぐに保湿剤を塗ることが効果的とされている)
- 洗浄は低刺激・無添加のボディソープ・石けんを使用し、強くこすらない
- 衣類は肌触りのよい綿素材を選び、締め付けの強いものを避ける
- 室内の温度・湿度を適切に保ち、汗をかいたら早めに拭く
- かゆくても搔き壊しを避け、冷たいタオルで冷やす
- レチノール・サリチル酸などを含む市販スキンケアは成分を確認してから使用する
- サプリメントや漢方薬も「自然由来だから安全」とは限らないため、服用前に医師に相談する
よくある質問
- Q. 妊娠中に市販のかゆみ止めクリームを使っても大丈夫ですか?
- 市販のかゆみ止め外用薬には、ステロイドや抗ヒスタミン成分が含まれているものが多く、妊娠中の使用については製品によって異なります。使用前に薬剤師に妊娠中であることを伝えて確認するか、皮膚科を受診して処方を受けることをお勧めします。自己判断での長期使用は避けるのが安全です。
- Q. 妊娠前から飲んでいた皮膚科の薬(にきびの薬など)は、妊娠が判明したら続けてよいですか?
- 妊娠が判明した時点で、処方を受けている皮膚科へ速やかに連絡し、継続の可否を確認してください。特にイソトレチノイン(内服の重症にきび治療薬)・テトラサイクリン系抗生剤は妊娠中は禁忌とされています。医師の指示なく急に中断することもリスクになる場合があるため、まず医師に相談することが最優先です。
- Q. 妊娠中のにきびは何もしない方がよいですか?
- 我慢して何もしないことが必ずしも安全ではありません。炎症性のにきびが悪化すると色素沈着・瘢痕形成につながる場合があります。妊娠中でも使用可能な外用薬(アゼライン酸・一部の抗菌外用薬など)や丁寧なスキンケアで対処できるケースも多くあります。皮膚科で妊娠中であることを伝えたうえで、適切なアドバイスを受けることをお勧めします。
まとめ
妊娠中に皮膚トラブルが起きても、「薬は一切使えない」「受診すると強い薬を出される」というのは誤解です。皮膚科では妊娠週数・症状の程度・薬の安全性データを総合的に判断し、母体と胎児双方の安全を考慮した治療が行われます。
重要なのは自己判断を避けることです。市販薬も含め、妊娠中に使用する薬はすべて医師または薬剤師に相談したうえで選択してください。また、かゆみ・湿疹・感染症などの症状を放置して悪化させることは、母体にとっても胎児にとっても好ましくありません。気になる症状があれば、早めに皮膚科へご相談されることをお勧めします。
皮膚科と産婦人科が連携しながら、妊娠中の皮膚トラブルに適切に対応することが、安心して妊娠期間を過ごすための大切な一歩です。
気になる症状があれば皮膚科へご相談ください
セルフケアで改善しない、症状が長引いている、原因が分からないといった場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。麹町皮ふ科・形成外科クリニック(千代田区市ヶ谷)でもご相談いただけます。
所在地: 東京都千代田区(市ヶ谷/半蔵門/永田町) / 監修: 苅部 淳 医師(形成外科専門医)
References
- 日本皮膚科学会『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021』https://www.dermatol.or.jp/
- 厚生労働省『妊婦・授乳婦への薬物投与に関する情報提供について』https://www.mhlw.go.jp/
- PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)『医薬品の添付文書情報(妊婦への投与)』https://www.pmda.go.jp/
- 日本アレルギー学会『アレルギー疾患診療ガイドライン2022』https://www.jsaweb.jp/
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監修医師

苅部 淳
Karibe Jun
理事長
略 歴
資 格
受 賞
苅部 淳 理事長の発信
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