「脂腺嚢腫」と「粉瘤」、見分けがつかず迷っていませんか

皮膚の下にコリッとしたしこりを見つけると、「これは悪性なのか」と検索して調べる方が多くいます。
ほとんどが良性のできものですが、袋のもとになる組織も、中に溜まるものも違います。名前が似ているため、ネット上の情報だけでは判断がつかず不安になりやすい病気です。
この記事では、公的な学会・医療機関の資料をもとに、2つの違いと受診の目安を整理します。自己判断で潰してしまう前に、確認しておきたい内容をまとめました。
- 粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)がどうやってできるのか
- 脂腺嚢腫・多発脂腺嚢腫症とは何か、遺伝との関係
- 2つの違いを一覧で比較(中身・見た目・好発部位・治療)
- 「脂肪のかたまり」「潰せば治る」という誤解の正しい理解
- 皮膚科・形成外科を受診する目安と、手術の保険適用
粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)とは

皮膚が袋状になり、垢と皮脂が溜まったもの
日本形成外科学会の解説(2024年3月26日更新)によると、粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)は皮下にできる良性腫瘍で、皮膚の上皮(表皮や外毛根鞘)が皮内や皮下に袋状の構造をつくったものです。袋の内側が皮膚と同じ上皮でできているため、本来は垢として外に落ちるはずの角質や皮脂が、粥状の内容物として袋の中に溜まっていきます。
同学会は、腫瘤の中央にしばしば見られる小さな黒っぽい開口部から、悪臭を伴う内容物が出てくることがある、と説明しています。この「中央の黒い点」は、粉瘤を疑う手がかりの1つです。
できやすい場所と、放置したときの変化
粉瘤は身体のどこにでもでき、特に背中やうなじ、頬、耳たぶにできやすい傾向があります。発生の原因は判らない場合が多いものの、ケガや毛嚢炎、ニキビが原因で生じることもあります(日本形成外科学会)。
同学会は、多くは放っておくと徐々に大きくなり、野球のボールほどになることもあると記載しています。さらに細菌感染を起こすと急に大きさを増し、赤く腫れて痛みを伴ったり、皮膚が破れて膿と臭い内容物が排出されたりします。
MSDマニュアル プロフェッショナル版(2023年9月最終更新)は、良性の皮膚嚢腫は触診で硬く球状で可動性があり、圧痛はなく、直径は通常5cmまでと幅がある、と記載しています。表皮封入嚢腫(類表皮嚢腫)は皮膚嚢腫のなかで最も頻度が高いものです。
脂腺嚢腫とは

中身は角質ではなく「皮脂」
脂腺嚢腫は、皮脂をつくる脂腺(毛穴に付属する油の腺)から生じる良性の嚢腫です。
脂腺嚢腫が皮脂(sebum)で満たされていると説明します。垢が主体の粉瘤とは、袋の中身がそもそも異なります。
ニュージーランドの皮膚科情報サイトDermNet(Amanda Oakley医師、2014年執筆・2021年改訂)は、脂腺嚢腫の大きさを2〜20mm程度、ときに数センチに達するとし、内容物を油状で黄色い液体と記載しています。小さな中央の開口部が確認できることもあるため、開口部の有無だけで粉瘤と区別するのは難しいところです。
多発脂腺嚢腫症は遺伝性の病気
脂腺嚢腫が全身に多数できる状態は「多発脂腺嚢腫症(steatocystoma multiplex)」と呼ばれます。MedlinePlus Geneticsによれば、この病気はKRT17遺伝子の変化によって起こり、常染色体顕性(優性)の形で遺伝します。KRT17は毛包や爪、手のひら・足の裏の皮膚でつくられるケラチン17というタンパク質の設計図にあたる遺伝子です。
嚢腫は思春期に初めて現れることが多く、体幹、頸部、上腕、大腿にできやすいとされています。嚢腫だけが症状のこともあれば、歯や爪の軽い異常を伴う場合もあります。有病率は不明ですが、まれな病気です(MedlinePlus Genetics、2016年9月1日更新)。
日本形成外科学会も、粉瘤と鑑別すべき疾患として脂腺嚢腫症を挙げ、「遺伝性でごく稀ですが少し黄色っぽく青年期以後の男性に多い」と記載しています。単発の場合はsteatocystoma simplex(単発性脂腺嚢腫)と呼ばれます(DermNet)。
脂腺嚢腫と粉瘤の違いを比較する

| 項目 | 粉瘤(アテローム・表皮嚢腫) | 脂腺嚢腫(多発脂腺嚢腫症を含む) |
|---|---|---|
| 袋のもとになる組織 | 皮膚の上皮(表皮や外毛根鞘)が皮内・皮下に入り込んだもの | 皮脂をつくる脂腺・脂腺の導管 |
| 袋の中身 | 角質(垢)と皮脂が混ざった粥状の物質 | 油状で黄色い皮脂 |
| におい | 悪臭を伴う内容物が出ることがある | 皮脂そのものが主体 |
| 中央の黒い開口部 | しばしば見られる | 小さな中央開口部が見つかることもある |
| できやすい場所 | 身体のどこでも。背中・うなじ・頬・耳たぶに多い | 胸・腹・上腕・わきの下・顔・頸部・大腿など |
| 数 | 単独の腫瘤として触れることが多い | 多発脂腺嚢腫症では多数が同時に現れる |
| 原因 | 不明なことが多い。ケガ・毛嚢炎・ニキビがきっかけになることも | 多発型はKRT17遺伝子の変化。常染色体顕性遺伝 |
| 出はじめる時期 | 年齢を問わない | 思春期に初めて現れることが多い |
| 治療の基本 | 袋ごと摘出。感染時は抗菌薬や切開排膿を先行 | 症状や整容面に応じて摘出など。確立した標準治療はない |
出典:日本形成外科学会(2024年)、MSDマニュアル プロフェッショナル版(2023年)、MedlinePlus Genetics(2016年)、DermNet(2021年改訂)
見た目だけで区別できない理由
皮下のしこりは、粉瘤と脂腺嚢腫以外にも似た病気が複数あります。
日本形成外科学会は粉瘤の鑑別を要するものとして、石灰化上皮腫(やや黒っぽく粉瘤よりも固い)、脂肪腫(化膿することはなく皮膚との癒着は少ない)、ガングリオン(四肢の関節や筋の上にでき、穿刺するとゼリー状の液が出る)、類皮嚢腫(目や鼻の周りの骨縫合部にでき、中に黄色の液体と毛が溜まる)、耳前瘻孔(耳の周囲の炎症性粉瘤と間違えやすい)を挙げています。
これだけ候補があるため、写真や自覚症状の比較で自己診断するのは無理があります。診断は医師の診察で行い、DermNetによれば脂腺嚢腫では皮膚生検で、嚢腫壁に脂腺を伴う薄壁の真皮内嚢腫という特徴的な所見が確認できます。
よくある誤解と見落としがちなポイント

誤解1:粉瘤は「脂肪のかたまり」
粉瘤は俗に「脂肪のかたまり」と呼ばれますが、日本形成外科学会は「実は脂肪組織ではなく、皮膚の老廃物のかたまり」とはっきり否定しています。脂肪の塊である脂肪腫は別の病気で、同学会によれば脂肪腫は化膿することがなく、皮膚との癒着も少ないという違いがあります。
「脂肪だから太らなければ小さくなる」といった考え方は当てはまりません。粉瘤は袋の中に老廃物が溜まり続けるため、体重や食事の管理では小さくならない病気です。
誤解2:潰して中身を出せば治る
中身を絞り出すと一時的にへこむため、治ったように見えることがあります。しかし日本形成外科学会は、無理に圧迫して内容物や膿を出そうとすると感染が周囲に拡大して重症化することがあるとして、圧出を避け、医師の診察と処置を受けるよう明記しています。
加えてMSDマニュアルは、破裂した嚢腫には切開排膿が可能でも、最終的に嚢腫壁(袋)を除去しないと再発することがある、と記載しています。中身だけ出しても袋が皮膚の下に残るため、また同じ場所に溜まっていきます。
自分でできること・やってはいけないこと

粉瘤も脂腺嚢腫も、塗り薬や生活習慣で袋そのものが消える病気ではありません。受診までの間に気をつけたい点を整理します。
- 指や器具で押して中身を出そうとしない(感染が広がるおそれがある)
- 針でつつく、消毒液を注入するなどの自己処置をしない
- 衣類やベルト、リュックのベルトでこすれる場所は刺激を減らす
- 赤み・痛み・熱感が出てきたら、市販薬で様子を見ずに受診する
- 大きさや個数の変化を、日付とあわせてメモや写真で記録しておく
- 家族に同じようなできものが多数ある場合は、その情報を医師に伝える
皮膚科・形成外科を受診すべきタイミング
次のような状態にあてはまる場合は、早めの受診をおすすめします。日本形成外科学会は、感染した場合は治療期間が長くなり、キズ跡も劣る傾向にあるため、できるだけ感染を起こす前に摘出することが望ましいとしています。腫瘤が大きくならないうちに治療したほうが傷跡も小さく目立ちにくいため、早めに形成外科を受診するよう勧めています。
- しこりが少しずつ大きくなってきた
- 赤く腫れてきた、押すと痛い、熱をもっている
- 臭いのある内容物が出てきた、皮膚が破れた
- 同じようなできものが胸や背中、わきの下などに多数ある
- 顔や首など、目立つ場所にできて傷あとが気になる
- 硬さや色が周囲と明らかに違う、短期間で急に変化した
皮膚科・形成外科での主な治療法
粉瘤:袋ごと取り除くのが基本
日本形成外科学会によれば、感染のない粉瘤は手術で摘出します。腫瘍の直径にほぼ一致させた、開口部を含めた紡錘形の皮膚切開から、皮膚と袋をひとまとめに摘出して縫合する方法が基本です。切開・縫合のデザインは傷跡がシワに沿うようにして、目立ちにくくする配慮が行われます。
また、開口部を小さく切開してくり抜き、内容物を出したあとに袋を引き出して摘出する方法もあります。傷跡がニキビ跡のように小さく目立ちにくいため、顔などでしばしば用いられる、と同学会は説明しています。当院でも形成外科で粉瘤の摘出を行っており、傷あとが気になる部位についてもご相談いただけます。
炎症・感染を起こしている場合
感染が軽い場合は、抗生剤や抗炎症剤の投与で鎮静化させてから摘出します。感染が強く多量の膿が溜まっている場合は、切開・排膿して開放治療(軟膏治療)を行い、感染が治ったあとに期間を置いて腫瘍を摘出する流れになります(日本形成外科学会)。
なおMSDマニュアルは、蜂窩織炎が生じていない限り抗菌薬は不要としています。腫れているからといって、手元にある抗菌薬を自己判断で飲み始めるのは避けてください。
脂腺嚢腫の治療
DermNetは、脂腺嚢腫には確立した標準治療がなく、症状がある場合や整容面の希望に応じて治療が行われる、と記載しています。個々の嚢腫は外科的に摘出でき、多くは小さな切開から嚢腫と内容物を取り出せるとしています。多発脂腺嚢腫症では数が多いため、どこからどう治療するかを医師と相談しながら進めることになります。
費用と保険適用
粉瘤などの皮膚・皮下腫瘍の摘出手術は、公的医療保険の対象です。厚生労働省の医科診療行為マスター(令和8年6月1日適用分)では、手術料は腫瘍の長径と、できた部位が「露出部」かどうかで区分されています。
| 区分 | 長径 | 点数 |
|---|---|---|
| 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部) | 2cm未満 | 1,660点 |
| 2cm以上4cm未満 | 3,670点 | |
| 4cm以上 | 5,010点 | |
| 皮膚、皮下腫瘍摘出術(露出部以外) | 3cm未満 | 1,280点 |
| 3cm以上6cm未満 | 3,230点 | |
| 6cm以上12cm未満 | 4,160点 | |
| 12cm以上 | 8,320点 |
1点は10円で計算します。3割負担の方であれば、露出部の2cm未満の摘出手術の手術料部分は約4,980円という計算になります。ここに初診料・再診料、病理検査、薬剤、処置などが別途加わるため、総額は診療内容によって変わります。実際の金額は受診先で確認してください。
よくある質問
- Q. 脂腺嚢腫と粉瘤は、見た目で見分けられますか
- 中央の黒い開口部や内容物のにおいはヒントになりますが、脂腺嚢腫にも中央開口部が見つかることがあり、決め手にはなりません。日本形成外科学会は粉瘤の鑑別疾患として石灰化上皮腫や脂肪腫、ガングリオンなども挙げています。診察を受けて確認するのが確実です。
- Q. 中身を出せば治りますか。自分で潰してもいいですか
- 日本形成外科学会は、無理に圧迫して内容物や膿を出そうとすると感染が周囲に拡大して重症化することがあるとして、圧出しないよう明記しています。MSDマニュアルも、嚢腫壁を除去しないと再発することがあると記載しています。中身だけ出しても袋は残ります。
- Q. 多発脂腺嚢腫症は子どもに遺伝しますか
- MedlinePlus Geneticsによれば、多発脂腺嚢腫症はKRT17遺伝子の変化によって起こり、常染色体顕性(優性)の形で遺伝します。この遺伝形式では、変化した遺伝子が1つあれば発症します。家族に同様のできものが多数ある場合は、受診時に伝えてください。
気になる症状があれば皮膚科へご相談ください
セルフケアで改善しない、症状が長引いている、原因が分からないといった場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。麹町皮ふ科・形成外科クリニック(千代田区市ヶ谷)でもご相談いただけます。
所在地: 東京都千代田区(市ヶ谷/半蔵門/永田町) / 監修: 苅部 淳 医師(形成外科専門医)
まとめ
脂腺嚢腫と粉瘤は、どちらも皮膚の下に袋ができる良性のできものですが、袋のもとになる組織が脂腺か表皮かという点で異なり、中身も皮脂か角質かで違います。
多発脂腺嚢腫症はKRT17遺伝子が関わる遺伝性の病気で、思春期ごろから胸や上腕などに多数現れます。
共通しているのは、袋を残したままでは再発しやすいこと、そして自分で潰すと感染が広がる危険があることです。日本形成外科学会は、感染を起こす前、大きくならないうちの治療が傷あとの面でも望ましいとしています。
皮膚の下のしこりが気になる、赤く腫れてきた、同じようなできものが増えてきた。そんなときは自己判断せず、皮膚科か形成外科を受診してください。麹町皮ふ科・形成外科クリニック、BIOTOPE CLINICでも、粉瘤をはじめとする皮膚のできものについてご相談いただけます。
References
- 一般社団法人日本形成外科学会『粉瘤(アテローム・表皮嚢腫)』2024年3月26日更新 出典
- MSDマニュアル プロフェッショナル版『皮膚嚢腫』Denise M. Aaron、2023年9月最終更新 出典
- MedlinePlus Genetics『Steatocystoma multiplex』U.S. National Library of Medicine、2016年9月1日更新 出典
- DermNet『Steatocystoma multiplex』Amanda Oakley、2014年(2021年改訂) 出典
- 厚生労働省『診療報酬情報提供サービス 医科診療行為マスター』令和8年6月1日適用 出典
- 厚生労働省『令和8年度診療報酬改定について』 出典
関連記事
本記事と合わせて読みたい記事はこちらです。
- 【医師が解説】脂腺嚢腫と粉瘤の違いとは?見分け方・治療法まとめ
- 粉瘤とは?できる原因や特徴、何科を受診すればいいかを解説
- 【粉瘤】切除費用と保険適用の条件をわかりやすく解説
- 【ホクロ】皮膚科で取る方法・費用・注意点を医師が解説
- いぼを皮膚科で取る方法とは?原因・治療法を医師が解説
監修医師

苅部 淳
Karibe Jun
理事長
略 歴
資 格
受 賞
苅部 淳 理事長の発信
関連クリニックの発信





