耳介血腫の治療法について

耳介血腫になると耳が変形してしまいます。耳はヘアスタイルによっては丸見えになることもあるため、耳介血腫を発症すると、外出先での人の視線が気になる人もいることでしょう。また、耳の変形によりイヤホンが装着しづらいという不便さを感じ、元の耳の形に戻したいと考える人もいるのではないでしょうか。そこで、この記事では、耳介血腫の治療法について、原因や症例などとともにわかりやすく解説します。

そもそも耳介血腫(じかいけっしゅ)とは、耳介に内出血が起こる病気です。耳介は耳殻(じかく)や耳翼(じよく)とも呼ばれ、耳のうち、頭部のアウトラインから外に出ている部分をいいます。翼のように広がった形をしていて、音を集める働きを持つ部分です。柔道の選手に多く見られる症状であることから「柔道耳」と呼ばれることも少なくありません。ただし、実際には柔道のほかにも、レスリングなどの格闘技やラグビー、相撲などの選手にも比較的多く見られる病気です。さらに、内出血により耳介が膨らみカリフラワーや餃子に似た形になることから「カリフラワー耳」や「餃子耳」と呼ばれることもあります。

 

主な原因

耳介血腫の主な原因は外部からの刺激です。耳に強い打撃や摩擦、圧迫を受けることにより発症します。スポーツをしている人であれば、ほかの選手に腕などで耳を強く挟まれた際の圧迫や耳がこすりつけられたときの摩擦を繰り返し受けることで発症するケースは少なくありません。また、アトピー性皮膚炎などで耳にかゆみを感じて何度もかく習慣があると、かいたときの刺激が原因となって発症する人もいます。そもそも外耳は、軟骨に皮膚が重なるようにしてできている特殊な構造を持った部分です。耳が外部から強い刺激を受けると、軟骨に直接刺激が加わりやすいため内出血を起こしやすくなります。そして、耳介の軟骨を覆っている膜のすぐ下で内出血を起こして皮膚内に血腫ができると、外から見てもはっきりわかるように耳が変形してしまうのです。

症状

耳介血腫の主な症状は、先でも解説したとおり、耳の腫れと変形です。特に耳のなかでも、耳介の前方部分の腫れが目立ちます。発症したばかりの頃は腫れた部分を触っても柔らかく感じられますが、放置するとだんだんと腫れが硬くなってくるため気を付けなければなりません。腫れが硬くなっていくのは内出血を起こしてできる血腫が徐々に固まって線維化していくからです。また、耳に刺激を受けても内出血の量が少なかったり血腫が小さかったりすれば、発症後、湿布で冷やしたり安静に過ごしたりすることでよくなる場合もあります。しかし、2週間以上放置しておくと耳介軟骨膜炎を発症したり、患部の状況によっては長期の放置で細胞や組織の一部が死ぬ壊死(えし)が起こったりする場合もあるため注意が必要です。

お悩みで多いケース

耳介は耳の外に出ているため、変形すると目に付きやすくなります。耳の形には個人差があり、理想とする形も人によってさまざまですが、耳介血腫は内出血による腫れであり、健康的な形ではありません。見た目に違和感を覚えやすいことから、一般の人に限らず、耳の変形も勲章と考えていたようなスポーツ選手でも引退して通常の生活に戻ると、人の視線を気にし始める人は多くいます。通勤や通学で利用する混雑した電車内など、他人と至近距離に立つようなシチュエーションでは、特に人の目が気になりやすいことでしょう。

また、人の目が気にならない人でも、イヤホンの装着の不便さに悩むケースもあります。外出時に音楽を聴いたり、オンライン会議などでイヤホンを使用したりする機会が度々ある人にとっては、イヤホンが耳にうまくつけられないことが日常のストレスになりやすいものです。そのため、患部の悪化が心配な場合だけではなく、生活におけるストレスも考えて、早いうちに治療しておきたいと考える人も少なくありません。

耳介血腫を発症した場合、どのような治療を行うのでしょうか。耳介血腫の症状が軽度であれば、先でも解説したとおり患部を冷やし安静に過ごすなどして様子を見ることも可能です。しかし、症状が進んでいたり、悪化や再発のリスクがあったりするときには治療が必要となります。たとえば、血腫が大きくなっているケースでは、耳の膨らみの原因である皮膚内の血液を注射針で抜き取らなければなりません。既に血液が固まっていたり、広範囲で内出血が起こっていたりする場合には、注射針だけでは皮膚内にたまった血液を十分に抜き取れないため、皮膚を切開して血液を除去します。血液を除去した後は、再度血腫が蓄積されないよう、血腫ができた場所を強く押さえて圧迫止血の処理をしておくことも重要です。感染のリスクがある場合には抗菌剤を使用することもあります。

耳介血腫は外部から刺激を受けて発症する病気ではあるものの、骨折もあわせて起こる症例はほとんどありません。しかし、骨折していないとはいえ、もともと複雑な形をしている耳を変形前に戻すことは簡単ではないのが現実です。特に、変形して硬くなってしまっている場合には、形成的な手術を行う必要が生じます。手術自体は通常、何時間もかかるものではありません。片耳であれば30分程度、両耳の場合は1時間程度の手術時間です。手術当日は、患部をぬらさずシャワーを浴びる入浴なら問題はありません。ただし、術後の運動は、医師の許可が出るまで禁止です。体を動かして患部に刺激が加わると、感染や腫れのリスクが高まったり、完成時の耳の左右差が激しくなってしまったりする恐れがあります。

耳介血腫には、小さな血腫が耳介の上部にだけできる症例もあれば、耳介全体に血腫ができてしまう症例もあります。症状には個人差があるため、発症を確認したら、まずは、専門家にどのような治療や手術が必要かを相談してみるとよいでしょう。柔道耳や餃子耳など、耳の形でお悩みの方はご相談ください。

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監修医師

沼畑 岳央Numahata Takao

沼畑 岳央 日本形成外科学会形成外科専門医
略 歴
弘前大学医学部医学科卒業
茨城県立中央病院
東京大学医学部附属病院
東京大学医学部附属病院形成外科
埼玉県立小児医療センター形成外科
静岡県立こども病院形成外科
総合病院国保旭中央病院形成外科
がん研究会有明病院形成外科
東京大学医学部附属病院形成外科 助教
専 門
日本形成外科学会形成外科専門医
専門分野
形成外科一般、耳介形成・再建、乳房再建、マイクロサージャリー
美容外科、美容皮膚科(レーザー、ボトックス、ヒアルロン酸)など

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