唇の荒れが何週間も治らないとき、何が起きているのか

唇の皮がむける、赤くなる、ヒリヒリする。リップクリームを塗り、保湿を続けているのに、なかなか元に戻らない。
そんな状態が何週間も続くと、「体の中に何か悪いところがあるのでは」と不安になるものです。唇の炎症が長引くときは、乾燥そのものよりも、炎症を起こし続けている「別の理由」が隠れていることがあります。
当院にも秋ごろより唇の乾燥、ひび割れ、皮むけなどのご相談が増えてきます。
今日は、私の経験を元に、日本皮膚科学会のガイドラインや厚生労働省の公的資料をもとに、口唇炎が治りにくくなる背景と、皮膚科で行われる検査・治療をまとめます。
- 唇の炎症が長引くときに、まず疑われる代表的な原因
- 塗っているリップクリームや薬そのものが原因になりうること
- 高齢の方の下唇の荒れで注意したい病気
- 自宅でできる見直しと、皮膚科を受診すべきタイミング
- 皮膚科で行う検査(パッチテスト)と治療の考え方
口唇炎とは何か、そしてよく似た症状との違い

口唇炎は、唇の赤い部分(唇紅部)やその周囲に炎症が起きた状態をさす言葉です。
日本皮膚科学会の接触皮膚炎診療ガイドライン2020では、湿疹を「かゆみ、ヒリヒリ感を伴う可逆性の炎症反応」と説明しています。
唇に生じた湿疹も同じで、急性期には赤み・小さな水ぶくれ・じくじくが、慢性化すると皮膚が厚く硬くなる苔癬化、かさぶた、ひび割れといった形をとります。
口角炎との違い
唇全体ではなく口の端(口角)だけが切れて痛む場合は、口角炎として区別されます。
日本口腔外科学会は、口角の発赤・びらん・亀裂を認める口角炎について、カンジダという真菌が原因になっていることが多い(カンジダ性口角炎)と説明しています。カンジダは口の中の常在菌で、免疫の低下や抗菌薬の長期服用などで菌のバランスが崩れると増殖します。
口唇ヘルペスとの違い
唇に小さな水ぶくれが集まって出て、治ってもまた同じ場所に繰り返す場合は、単純ヘルペスウイルスによる口唇ヘルペスの可能性があります。
日本皮膚科学会の皮膚科Q&Aによれば、このウイルスは初感染のあと感覚神経節に潜伏し、発熱や紫外線、ストレス、免疫の低下といった刺激をきっかけに再発します。湿疹とは治療薬がまったく異なるため、自己判断で湿疹の薬を塗り続けると長引く一因になります。
口唇炎が治らない主な原因

原因物質に触れ続けている
接触皮膚炎診療ガイドライン2020は、部位別の原因をまとめた表のなかで、口唇の接触皮膚炎について「化粧品、特に口紅、リップクリームおよび食物による皮膚炎が多い」と記載しています。同ガイドラインの化粧品皮膚炎の表でも、口唇炎に対応する化粧品として口紅とリップクリームが挙げられています。
ガイドラインによると、化粧品皮膚炎の原因原料として最も頻度が高いのは香料で、原因の30%以上を占めます。香りつきのリップクリームや色つきの口紅を使い続けている間は、保湿をどれだけ丁寧にしても炎症が止まりません。ここが「治らない口唇炎」で最も多い落とし穴です。
塗っている薬そのものが原因になっている
同ガイドラインは、接触皮膚炎の原因アレルゲンのなかで医薬品の頻度は高く、抗菌薬や消炎鎮痛外用薬によるものが多いと述べています。
これらが湿疹に使われた場合、「症状の悪化・難治化といった形をとるため、接触皮膚炎と分かりにくいことがある」とも記載されています。
市販薬(OTC医薬品)についても、ガイドライン内で紹介された西岡らの報告では、5年間の外用薬による接触皮膚炎46症例のうち27症例がOTCによるものでした。
もともとの体質(アトピー性皮膚炎など)
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024の診断基準では、皮疹の好発部位として前額、眼囲とならんで「口囲・口唇」が明記されています。アトピー性皮膚炎がある方の唇の荒れは、季節や体調に合わせて再燃を繰り返しやすく、単発の乾燥として扱うと繰り返します。
栄養状態
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書は、ビタミンB2について「欠乏により、口内炎、口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎などが起こる」と記載しています。ただし、唇の荒れがすべて栄養不足で説明できるわけではありません。サプリメントの自己判断での増量より、原因の切り分けを先に行うほうが近道です。
見落としがちなポイント

誤解1:リップクリームを塗れば治るはず
保湿は基本ですが、前述のとおり接触皮膚炎診療ガイドライン2020は、口唇の接触皮膚炎の代表的な原因として口紅とリップクリームを挙げています。荒れているからこそ塗る回数が増え、その分だけ原因物質との接触も増える、という悪循環が起こります。1〜2週間たっても改善しないときは、いったん使用を中止して変化をみる価値があります。
誤解2:ただの乾燥だから放っておいてよい
高齢の方の下唇に、乾燥・かさかさした鱗屑・ひび割れが長く続く場合は注意が必要です。
日本皮膚科学会と日本皮膚悪性腫瘍学会による有棘細胞癌診療ガイドライン2025は、「日光口唇炎は特に下口唇に生じる日光角化症で、唇紅部の乾燥、鱗屑、亀裂といった症状を示す。日光曝露の機会が多い高齢者に好発し、有棘細胞癌に進展することがある」と記載しています。同ガイドラインは、病変内に浸潤を触れる、炎症や出血を伴うといった所見を、有棘細胞癌への移行を疑う徴候としています。長引く下唇の荒れを「年のせい」で片づけないでください。
まれですが、全身の病気が隠れていることも
唇が腫れぼったく膨らんだ状態が続く肉芽腫性口唇炎という病気もあります。日本皮膚科学会雑誌に報告された症例(2024年)では、12歳の女児が口唇の腫脹で受診し、生検で肉芽腫性口唇炎と診断されたのち、Crohn病と診断されました。この報告は、国内の合併例では発症が10代に多く、口唇炎の後にCrohn病を発症する症例が多かったとまとめています。腫れが主体で長期間続く場合は、皮膚科での精査対象になります。
セルフケアで見直したいこと

原因の切り分けは、身につけているものを一度減らすところから始まります。以下は自宅でできるチェックです。
- 香料・着色料入りのリップクリームや口紅を、1〜2週間すべて中止して変化をみる
- 市販の塗り薬を複数使っている場合、いったん整理する(自己判断で継続しない)
- 唇に食べ物や飲み物が付いたまま放置せず、こすらずに軽く押さえて拭き取る
- 唇をなめる、皮をむく、噛むといった刺激を減らす
- 屋外で過ごす時間が長い方は、紫外線対策として帽子などで唇への日光を減らす
- 使用中の化粧品・薬・歯みがき剤の製品名を控えておき、受診時に持参する
製品を持参できると、皮膚科での原因の絞り込みが早くなります。市販薬を使う場合は、成分の重複を避けるためにも薬剤師に相談してください。
皮膚科を受診すべきタイミング

次のいずれかに当てはまるときは、自宅でのケアを続けるより受診をおすすめします。
-
保湿や市販薬を2週間程度続けても改善しない
-
ステロイド外用薬を4週間程度使っても皮疹が改善しない(アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024は、この場合や重症例で皮膚科専門医への紹介が望ましいとしています)
-
同じ場所に水ぶくれが繰り返し出る
-
口角が切れて痛み、白い苔のようなものが口の中にもある
-
高齢で、下唇の乾燥・かさつき・ひび割れが数か月続いている
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唇の腫れが引かず、しこりのような硬さや出血がある
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症状が唇を越えて口の周りや顔全体に広がってきた
皮膚科での検査と治療
原因を突き止めるパッチテスト
接触皮膚炎診療ガイドライン2020は、接触皮膚炎について「原因を確定し、その原因との接触を断つことができれば根治できる疾患である」としたうえで、原因を明らかにする有力な検査はパッチテスト以外に存在しないと述べています。日本アレルギー学会の一般向けQ&Aでは、背中または腕に2日間貼り、はがした後も複数回に分けて判定する検査として説明されています。
国内では、ジャパニーズスタンダードアレルゲン2015(JSA2015)として24種類のアレルゲンが用いられ、パッチテストパネル®(S)22種と鳥居薬品のパッチテスト試薬34種が保険承認されています。JSA2015の2016年度の集計(SSCI-Net登録1,390件)では、硫酸ニッケルが24.8%、金チオ硫酸ナトリウムが23.2%と陽性率の上位を占め、リップ製品にも関係する香料ミックスは5.3%、ラノリンアルコールは1.8%でした。
治療の考え方
ガイドラインは、原因を見逃したまま対症療法に終始することについて、長期のステロイド外用による皮膚萎縮などの副作用を生じ、治療期間の長期化にもつながるため行うべき診療ではない、と明記しています。原因を断つことと、炎症を抑えることを同時に進める形になります。
接触皮膚炎診療ガイドライン2020が示す、各治療の推奨度と保険適用は次のとおりです。
| 治療 | 推奨のグレード | 保険適用 |
|---|---|---|
| ステロイド内服薬・外用薬 | A | あり |
| 抗ヒスタミン薬 | B | あり |
| 免疫抑制薬の内服薬・外用薬 | C1 | なし |
| 紫外線療法(慢性の手湿疹に対して・PUVA) | A | なし |
| 紫外線療法(慢性の手湿疹に対して・NB-UVB) | B | なし |
出典:日本皮膚科学会「接触皮膚炎診療ガイドライン2020」表22。なお紫外線療法の項目は慢性の手湿疹を対象とした評価です。
唇の症状は、湿疹なのか、真菌の感染なのか、ウイルスの感染なのかで使う薬が変わります。日本口腔外科学会は、口腔カンジダ症の治療について、口腔内の清掃と抗真菌薬を含むうがい薬や塗り薬を使い、時に内服が必要になると説明しています。ステロイド外用薬が有効な状態と、逆に避けたい状態があるため、診断を先につけることが遠回りに見えて最短になります。当院でも一般皮膚科(保険診療)としてステロイド外用薬や抗アレルギー薬、抗真菌薬による治療を行っていますので、判断に迷うときはご相談ください。
よくある質問
- Q. 食べ物を食べた直後に唇がヒリヒリします。口唇炎でしょうか。
- 接触皮膚炎診療ガイドライン2020は、食物による接触蕁麻疹について、原因食物を摂取した後、数秒から数分以内に口唇および口周囲に刺激感、灼熱感、かゆみが起こり、口の中にも同様の症状が生じる場合があると記載しています。摂取直後に症状が出るときは、湿疹とは別の反応の可能性があるため、何を食べたときに起きたかを記録して受診してください。
- Q. 歯の詰め物が原因になることはありますか。
- 接触皮膚炎診療ガイドライン2020は、歯科用金属によって口腔内のびらんや扁平苔癬様の症状、掌蹠の水疱・膿疱などが生じうることを、金属の病型と感作源の表にまとめています。金属アレルギーが疑われる場合は、パッチテストで原因金属を確認したうえで歯科と連携する流れになります。
- Q. パッチテストはどの皮膚科でも受けられますか。
- 接触皮膚炎診療ガイドライン2020は、パッチテストは手間と時間がかかり保険点数も低いため、一般皮膚科診療で活用されているとは言えない状況だと述べています。実施の可否や日程は医療機関によって異なるため、受診前に問い合わせておくと確実です。
気になる症状があれば皮膚科へご相談ください
セルフケアで改善しない、症状が長引いている、原因が分からないといった場合は、早めに皮膚科を受診することをおすすめします。麹町皮ふ科・形成外科クリニック(千代田区市ヶ谷)でもご相談いただけます。
所在地: 東京都千代田区(市ヶ谷/半蔵門/永田町) / 監修: 苅部 淳 医師(形成外科専門医)
まとめ
口唇炎が治らないとき、多いのは「保湿が足りない」ではなく「炎症を起こす何かに触れ続けている」状態です。
接触皮膚炎診療ガイドライン2020が示すとおり、唇では口紅やリップクリーム、食物が主な原因になり、塗っている市販薬そのものが原因のこともあります。
そして、高齢の方の下唇に続く乾燥・鱗屑・亀裂は、有棘細胞癌診療ガイドライン2025が有棘細胞癌に進展しうると記載する日光口唇炎の可能性があります。
長引く唇の症状は、自己判断で薬を足していくより、原因を確かめるために皮膚科を受診してください。麹町皮膚科・形成外科クリニック、BIOTOPE CLINICでは保険診療のおんらいん診療も行っています。当日は予約なしでも診察可能ですので、最寄りのクリニックにご相談ください。
2週間以上改善しない、繰り返す、腫れやしこりを伴うといった症状があれば皮膚科を受診してください。当院でもご相談いただけます。
References
- 日本皮膚科学会接触皮膚炎診療ガイドライン改定委員会『接触皮膚炎診療ガイドライン2020』公益社団法人日本皮膚科学会、日本皮膚科学会雑誌130(4):523-567、2020年 出典
- 皮膚がん診療ガイドライン策定委員会『皮膚がん診療ガイドライン第4版 有棘細胞癌診療ガイドライン2025』公益社団法人日本皮膚科学会・一般社団法人日本皮膚悪性腫瘍学会、日本皮膚科学会雑誌135(6):1531-1578、2025年 出典
- アトピー性皮膚炎診療ガイドライン策定委員会『アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024』公益社団法人日本皮膚科学会・一般社団法人日本アレルギー学会、日本皮膚科学会雑誌134(11):2741-2843、2024年 出典
- 厚生労働省『「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書 ビタミン(水溶性ビタミン)』厚生労働省、2019年 出典
- 公益社団法人日本口腔外科学会『口腔外科相談室 口腔粘膜疾患』日本口腔外科学会 出典
- 公益社団法人日本皮膚科学会『皮膚科Q&A ヘルペスと帯状疱疹 Q6 再発はどのようにして起こりますか?』日本皮膚科学会 出典
- 一般社団法人日本アレルギー学会『接触皮膚炎/Q&A(一般の方向け)』日本アレルギー学会 出典
- 福井玲矛、角田加奈子、大西正純、天野博雄『Crohn病を合併した肉芽腫性口唇炎の1例―国内報告例のまとめと病理組織像の検討―』日本皮膚科学会雑誌134(10):2565-2571、2024年 出典
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苅部 淳
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